TOP>
エウカリスチアの年の学び(1)
−教皇文書と教皇庁文書−
BACK
   まずカトリック教会が現在エウカリスチアをいかに理解しているか、特に教皇文書をとおして学びたい。 そのための基礎資料を、網羅するものではないか、ここに列挙してみた。 幸いにもその主な文書が日本語に翻訳されており、その翻訳を大いに活用したい。 今後、その筋の専門家の解説が出版されることが望まれる。

 エウカリスチアとは何なのかの理解を深めるために、まずは、教皇ヨハネ・パウロ2世の回勅『教会に命を与える聖体』を読みたい。 これは、神学的内容がかなり重厚で速読はできず、解説を必要とするかもしれない。 つぎに同教皇の使徒的書簡『主よ、一緒にお泊りください』も読みたい。 これは回勅に比べて短く、司牧的配慮をもって書かれているので、近づき易いと思われる。 そのいずれも、エウカリスチアが教会にとってどれほど重要なものであるか、確信を深め、それを正しく理解して、ふさわしく祝ってほしいとの願いをもって書かれている。 こうしてカトリック教徒が深い霊性を身につけるよう呼びかけている。 その霊性とはエウカリスチア的霊性にほかならない。 この霊性の強調に現教皇の特徴が現れていると思う。 この霊性の深まりをもって教会を活性化し、難題がつぎつぎと襲いかかる21世紀の世界に答えていこうとされている。 いずれの文書も現代世界へのミッションに言及している。 他方、エウカリスチアを疎かにしたり、 心ない扱いをしたり、新しい時代と地方への適応としてその祭儀に節度を弁えない変更、削除、追加をしたりする風潮が世界中に広がっているとして、 2004年に典礼秘跡省は訓示『レデンプツィオニス・サクラメントゥム(贖いの秘跡)』を発表した。 この文書にはそのような風潮に流されないようにとの規律粛清の意図が前面に出ているが、その風潮もエウカリスチアの正しい理解の欠如から来るとも言っている。 それに対して、教皇の回勅と使徒的書簡はエウカリスチアの正しく、深い理解に導こうとして、その積極的な側面が前面に出ている。 日本のカトリック教会でも、特に信徒がエウカリスチアにいっそう深く関わるようになった現在、これらの文書は広く読まれ、学ばれる必要があるのではないだろうか。
 この2つの教皇文書は孤立したものではない。 現教皇は広大な信仰的ヴィジョンを頭に描いておられ、その中でそれぞれの信仰的主題が整合性をもって位置づけられており、 それを順次明らかにし、信徒たちの心に浸透させたいと考えておられているのであろう。 エウカリスチアも受肉の秘義の中で、その延長として考えなければならないものであるから、 受肉の秘義を主題とした同教皇の使徒的書簡『紀元2000年の到来』と、『受肉の秘義』−2000年の大聖年公布の大勅書−が前提となっている。 これも、もう一度読み直したい。 受肉というなら、聖母マリアが果たされた役割を考えなければならない。 「おことばどおり、この身になりますように」(ルカ1:38)との聖母マリアの同意がなければ、御ことばの受肉もなかったし、教会もなかった。 ここで同教皇の使徒的書簡『おとめマリアのロザリオ』が重要となってくる。 このロザリオに代表され聖母マリアへの信心も、いかにこれを理解して唱えるか、致命的な重要性をもっている。 個人的で感情的でゆがんだマリア崇敬を勧めておられるのではない。 ロザリオは単純でありながら深い祈りで、イエスの秘義の瞑想に導くものとして勧めておられる。 ここでわたしたちもマリア信心がこれでいいのか、反省したい。 この味わい深い使徒的書簡にはカトリック的霊性とは何かがよく表現されていると思う。 天使祝詞の言葉をあらためて一つ一つその意味を噛み締めながら唱えるようにしたい。そのための説明は、本HP参照。
 さらにエウカリスチアが祝われる主日の意義と重要性を説いた使徒的書簡『主の日』−日曜日の重要性−も、重要性を帯びてくる。

 教皇ヨハネ・パウロ2世は、第2ヴァチカン公会議開催を決意したヨハネ23世と同公会議を締めくくったパウロ6世から取られたその名前が示すように、 第2ヴァチカン公会議(1962−65)の決議を広く深く実践していくことを使命と考えておられる。 それゆえ、その回勅や使徒的書簡などその発言の基礎に第2ヴァチカン公会議の決議が基礎としてある。 確かに同公会議はエウカリスチアのみを主題として取り上げ、それを検討することはなかったが、同会議のいろいろな文書の中で言及されている。 特にエウカリスチアについては、典礼憲章(本HP参照)、教会憲章、啓示憲章(本HP参照)が基礎となっている。 エウカリスチアに関しては、当然典礼憲章が最も重要だが、その中でも秘義としての教会との関連でエウカリスチアを考えている。 回勅の冒頭のことば、Ecclesia de Eucharistia(直訳「教会はエウカリスチアによって」)は、第2ヴァチカン公会議の典礼憲章と教会憲章を要約した響きをもっている。 勿論、このような信仰的ヴィジョンは、神の啓示に基くが、その中に聖書が位置づけられている。 聖書は重要だが、ここでもただ聖書を読むだけでは足らない。いかに読むかが重要になってくる。 その読みかたによっては、聖書も一般の書物ないし教訓書を読むのと変わらなくなる。聖書はそれ以上のものであり、 啓示憲章には、その聖書の正しい読み方の基本も示されている。 つまるところ、聖書学者の解説も助けになるが、あのエマオに向かう道中のように(ルカ24:32)、 イエスに説き明かしていただかなければ、文字の奥にある真の深い意味は覆われたままであろう。 エウカリスチアの中にいますイエスは、現在もわたしたちに聖書を説き明かしてくださる。
 なお典礼憲章については、その発布40周年にあたって、教皇ヨハネ・パウロ2世が発表された使徒的書簡『霊と花嫁』がある。
 第2ヴァチカン公会議(1962−1965)も過去の出来事となった。 その後のおよそ40年、教会はその公会議の決議にしたがって刷新を推し進めてきた。 エウカリスチアに関しては、特に目覚しいミサの刷新が重要である。 公会議後、その刷新されたミサの儀式書が発行されたが、その中にある総則などにエウカリスチア神学を読み取ることができる。 それゆえ、エウカリスチアを学ぶためのその儀式書も教材となる。 ミサ典礼書とともにほかの儀式書にもエウカリスチアに関係するものがある。
 教会にとってのエウカリスチアの重要性は歴代の教皇によって、強調されてきた。 ここで第2ヴァチカン公会議との関連で、邦訳もあるので、パウロ6世の回勅と使徒的勧告を掲げておいた。 この回勅は、パンとぶどう酒がキリストの体と血に変化することを、実体変化(trans-substantiatio)という伝統的な哲学的な説明を、 新しく提唱される説明の試みに対して弁護したものとして保守的という者もあった。 その実体変化は、ヨハネ・パウロ2世の回勅にも繰り返されていて、実体変化という説明に代わるものがないのだろうかと思い、もう一度その意味と意義を考えている。 他方、実体変化という神学上の論議は続けられなければならないと思うが、 何よりも、日本のカトリック教会ではそのような議論をしないという信仰に関する知的活動の減退に問題があるのではないだろうか。
 『カトリック教会のカテキズム』も、カトリックの信仰理解を知るために、その重要性は無視できなくなってきたように思う。 特にエウカリスチアについては、1322−1405(403−430頁) 。ここで Eucharistia の日本語訳を「エウカリスチア」としているが、この呼称についての項目1328−1332(405−406頁)を読めば、 この訳語が最も適していることがわかる。
 最後に、これらの公文書の多くは幸いにも日本語にも翻訳されて、カトリック中央協議会から発行されている。 その翻訳者をはじめ発行に関わった方々の御苦労に感謝すると共に、 これらの公文書が広く活用されることを願って、ここに紹介したしだいである。


エウカリスチアの年にエウカリスチアを考えるための教皇文書
Johannes Paulus II, Litt.Encycl.Ecclesia de Eucharistia, 17 april 2003:邦訳 教皇ヨハネ・パウロ2世、 回勅『教会に命を与える聖体』、カトリック中央協議会発行、2003年7月
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Mane nobiscum Domine, 7 Oct.2004:邦訳 教皇ヨハネ・パウロ2世、 使徒的書簡『主よ、一緒にお泊りください』、カトリック中央協議会、2004年12月25日

大聖年の文脈の中でエウカリスチアを考えるための教皇文書
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Tertio Millennio adveniente, 10 Nov.1994n:邦訳、教皇ヨハネ・パウロ2世、 使徒的書簡『紀元2000年の到来』、カトリック中央協議会、1996年)
Johannes Paulus II, Incarnationis Mysterium, Bull of the Great Jubilee of the Year 2000, 1998 nov.1998 : 邦訳 『受肉の秘義』−2000年の大聖年公布の大勅書−、東門陽二郎訳、カトリック中央協議会、1999年1月20日
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Novo Millennio Ineunte, 6 jan.2001:教皇ヨハネ・パウロ2世、使徒的書簡『新千年紀の初めに』、カトリック中央協議会
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Rosarium Virginis Mariae, 16 Oct.2002:邦訳、教皇ヨハネ・パウロ2世、『おとめマリアのロザリオ』、 カトリック中央協議会発行、2003年1月17日
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Dies Domini, 31 Mai 1998:邦訳、教皇ヨハネ・パウロ2世、使徒的書簡『主の日』−日曜日の重要性−、カトリック中央協議会

第2ヴァチカン公会議後40年にあたってそのエウカリスチア神学を振り返るために
Concilium Vaticanum II(第2ヴァチカン公会議)の3つの憲章
Constitutio de Sacra Liturgia Sacrosanctum Concilium:聖なる典礼に関する憲章:SC、または典礼憲章と略す。
Constitutio Dogmatica de Ecclesia Lumen Gentium:教会に関する教義憲章:LG、または教会憲章を略す。
Constitutio Dogmatica de Divina Revelatione Dei Verbum:神の啓示に関する教義憲章:DV、または啓示憲章と略す。
Johannes Paulus II, Litt.Apostol.Spiritus et Sponsa, 4 dec.2003:教皇ヨハネ・パウロ2世、 使徒的書簡『霊と花嫁』−聖なる典礼に関する憲章「サクロサンクトゥム・コンチリウム」40周年にあたって−

第2ヴァチカン公会議の典礼刷新に沿って実践するための典礼書
Missale Romanum, Institutio generalis Missalis Romani, Ed.Typica tertia, 2002:『ローマ・ミサ典礼書』 第3改定版中の総則:邦訳『ローマ・ミサ典礼書の総則(暫定版』(カトリック中央協議会発行、2004年4月28日)。 また『典礼歴に関する一般原則および一般ローマ暦』(同発行、2004年8月15日)も共に参考に。
Rituale Romanum, De Sacra Communione et de cultu mysterii eucharistici extra Missam, Ed.typica,reimpressio emendata, 1974:邦訳『カトリック儀式書 ミサ以外のときの聖体拝領と聖体礼拝』(カトリック中央協議会発行)
LITURGIA HORARUM, Institutio generalis de Liturgia Horarum, Ed.typica altera, 1985:『教会の祈りの総則』第2版:邦訳『教会の祈り(新しい聖務日課)』(カトリック中央協議会、1973年)に初版の総則が掲載されている。
Ordo initiationis Christianae adultorum, 1972:邦訳『カトリック儀式書 成人のキリスト教入信式』、典礼司教委員会編集、カトリック中央協議会、1976年

そのほか
Paulus VI, litt.Encycl. Mysterium Fidei (3 sept.1965):邦訳、教皇パウロ6世、 回勅『ミステリウム・フィデイ』、聖体の教義と崇敬について、沢田和夫訳、中央出版社(現サン・パウロ)、1965年
Paulus VI, Exhortatio Apostolica Gaudete in Domino(9 mai 1975):邦訳、教皇パウロ6世、 使徒的勧告『ガウデーテ イン ドミノ』、中央出版社(現サン・パウロ)、1975
Codex Iuris Canonici, 1983:邦訳、『カトリック新教会法典』[羅和対訳]、日本カトリック司教協議会教会行政法制委員会訳、有斐閣、1992年
Catechismus Catholicae Ecclesiae, 1997(ラテン語規範版:邦訳、『カトリック教会のカテキズム』、 日本カトリック司教協議会教理委員会、カトリック中央協議会、2002年
Congregatio pro culto Divino et Disciplina Sacramentorum, Instructio Redemptionis Sacramentum, 25 mars 2004:典礼秘跡省 訓示 『レデンプツィオニス・サクラメントゥム(贖いの秘跡)』。
Congregatio pro culto Divino et Disciplina Sacramentorum, Directoire sur la piété populaire et la Liturgie, 13 mai 2002:典礼秘跡省 『民間の信心と典礼』。
Congregatio pro Institutis Vitae Consacratae et societate Vitae Apostolicae, Instructio, Repartir du Christ . Un engagement renouvelé dans le Troisième millénnaire, 19 mai 2002:邦訳、教皇庁 奉献・使徒的生活会省『キリストからの再出発』−第3の千年紀における奉献生活の刷新−、カトリック中央協議会
BACK